スクーターに乗ってどこまでも 

海沿いの町・伊東で楽しむ、スクーターとの毎日

スクーターとかまきり

これは、物語です。

ノンフィクションでありながら、奇妙な場面に遭遇したため、

物語として記録したくなりました。

拙いお話ですが、どうぞご覧ください。

 

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ある晴れた日、おでかけにゆこうとした私は、

いつも通りにスクーターが止まっている駐車場へゆきました。

駐車場は一面芝生・・・というより、丈低めの雑草が青々と茂っており、

若草色にスクーターの赤い車体が映えて、いつも以上にキラキラして見えます。

 

もっとキラキラさせたかったので、

ヘルメット入れから雑巾を取り出し、運転前に車体を乾拭きしました。

すると、おや?

計器の上に緑の草が乗って、なにやら動いています。

 

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よくみるとそれは草ではなく、大きなカマキリでした。

鎌を持つ両手を大きく広げて、こちらを威嚇しているのでしょうか。

しかしその姿はなんだか滑稽で、

まるでこちらに向かって挨拶をしているようにみえました。

 

私も心の中で挨拶を返し、しばらく眺めていましたが、

一向に飛び去る気配のないカマキリに、長時間つきあってはいられません。

私は持っていた雑巾を広げてカマキリをそっとつかむと、

駐車場の隅っこへ連れて行き、その草むらに放しました。

茂みに落ちたカマキリは、もう姿が見えなくなりました。

 

 

数日後、仕事へ行くためスクーターを動かす私の目に、

また細い緑色が飛び込んできました。

そのカマキリは、今度は黒いサドルの上に乗って、同様のポーズ。

長い腹には小さな模様があって、それによって

先日車体に止まっていたカマキリだ、とすぐに分かりました。

 

仕事前の今はもう、挨拶を返す時間はありません。

私はカマキリが乗ったまま、ヘルメット入れを開けました。

そして下に滑り落ちたところを、中から取り出した雑巾で拾い、

すぐさま遠くの茂みに運びました。

近くに放ると、轢いてしまうかもしれませんから。

 

どうしてまた、ここに現れたのか。

カマキリを放しながら、ぼんやりと考えました。

駐車場の乗り物を、遊び場の様に思っているのか。

それとも、スクーターによじ登ることで、餌を捕まえやすいのか。

私のスクーターの頭は三角、かまきりの頭も三角。

もしかしてスクーターを、自分と似た者同士に思っているのか。

 

いやいや、そんなことはないでしょう。

それに、考えても仕方ない。

カマキリの本当の気持ちはカマキリにしか分からないのです。

そんなことを思いながら発進した私ですが、

数秒後には、それを考えたことすら忘れてしまっていました。

 

 

その後、何事もなく毎日運転をしていた私。

そして一週間後。

お出かけから帰ってきた後、スクーターのお掃除を始めた時、

あるものに気付きました。

黒いマフラーカバーの上に、何かごみのようなものが付着していたのです。

よく見ると、それはカマキリの焼け焦げた姿でした。

体の大きさから、おそらく先日会ったカマキリに違いありません。

熱を帯びたマフラーに乗り、そのまま死んで焼き付いてしまったのでしょう。

 

どうして戻って来たの! 

そんな言葉しか思い浮かばないほど、その死はショックでした。

焦げたカマキリの体は、拭き取ると崩れずにカラっと外れました。

私は奥の草むらをかき分け、その体を茂みの中にそっと隠しました。

生まれ変わっても、また戻って来ないでね。

 

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ありがとうございました。